大学入学共通テスト日本史試行調査(2018.11.10実施)分析・史料問題解説【生徒】

共通テスト日本史試行調査

大学入学共通テスト 日本史2回目試行調査 2018年11月10日実施

以下は『朝日新聞』2018.11.1124面の転写画像。

解法例(管理者作成)

 第2問

問3【正答】④―⑤

解答番号[10][11]

 地図上に「多賀城(陸奥国府)」、「出羽国府」とあり、陸奥国と出羽国が設置され政庁があったことがわかるので、Xが誤りであることはすぐにわかる。地図の下に、「(注)地図中、陰影の薄い部分は平野部を表す」とある。地図の時間軸は、左→中→右であるが、地図からの思考だけでなく、支配過程の基礎的な知識・理解も必要である。蝦夷の視点から見るために南北を逆転させて読解力を試している。見慣れている地図とは違い、左側が太平洋側、右側が日本海側になっていることが理解できなければいけない。中央政府の支配は日本海側の平野部から進んでいる。しかし、地図と歴史的事実aから、蝦夷は、中央政府の支配に対し激しく抵抗したことがわかり、中の図から、太平洋側は北上川流域の平野部の支配が多賀城から進まず、日本海側は秋田城から北側の支配が進んでいないことがわかる。歴史的事実bから「城柵の近くに関東の農民を移住させて開墾を行った」ことがわかる。Yは、日本海側と太平洋側・北上川流域の平野部から支配域を拡大していることが地図から読み取れるので正しい。地図から、太平洋側の沿岸部(リアス式海岸であることは基本的な知識)に大きな平野はなく、城柵は設置されていないことが読み取れる(地理的な知識でもある)のでZは誤りである。

 以上から、X・Zの関係する選択肢はすべて誤りとなる。

 Yは正しく、Yの選択肢は3つあるので、このうち2つが正しく、1つが誤っていることになる。

 2問を完答するには、与えられた情報により、思考・判断することが必要になりやや難しい。中央政府が平野部から支配を拡大しようとしたことは地図上の情報から明らかであり、その結果、歴史的事実aの蝦夷の抵抗があり、bが行われた。

 この出題のポイントであり、難易度を高めているのは3つの選択肢a~cがすべて正しいことである。正しい文章をYと関連付けて考えて解答しなければならない。この問いの場合、歴史的事実cに記された蝦夷が独自の文化を保持したことは、Yの中央政府が平野部から支配を拡大したという情報とは直接的な因果関係はないと類推、判断できる。

 以上からY―a、Y―bが正答となる。

 

 以上の連動型の解答番号10・11(2つ正解して3点。平均正答率5~10%)は、解答番号35・36(平均正答率75~80%)に見られるような、組み合わせた正解が2つあってそのうち1つだけ解答すればよい単純な組み合わせ連動型ではない。まず地図を読み取り、歴史的な知識と合わせて考え、情報Yが正しいと判断しなければならない。その上で、Yとa~cの正しい歴史的事実の関連を考えなければならない。共通テストではこうした新形式の判断連結式の連動型の問いが出題される可能性がある。

2021.1.11更新 

 


第3問

問4【正答】③

解答番号[17]

 15世紀の基本的な時代の流れがつかめていれば、中学校での学習で解答できる平易な問題である。

 ただし、平易なために、2問を解答してはじめて正答となり、得点できる新型の得点形式である。

根拠aは南北朝の内乱の説明で14世紀であり、bは応仁の乱と戦国時代の説明で15世紀のことである。

 

 cは15世紀の自治的な村の惣村の説明であり、dは15世紀の民衆の成長の説明になっていない。儒学教育は儒教を解釈する朱子学や陽明学などによる教育で、江戸時代の主に武士社会の教育に関わることで、問いに対してはかなりはずれた説明であり、解答は平易である。正答はXがbの15世紀の応仁の乱と戦国時代、Yがcの15世紀の惣村となる。

 


試行調査の問題作成は、前記の第2問・問3のように、最初に資料の解読と基礎的な知識で解答する段階があり、次の段階で満点を取るには思考・判断する学力が必要とされる2段階の出題方法になっている出題がある。

 ただ、その分、問い方が複雑になっているので注意が必要で、事前に模試等で問い方が複雑な問題に慣れておくとよい。また、問題全体を俯瞰して解答の時間配分も考えておかなければ、一部の問題に時間をかけすぎてしまい、学力通りの得点ができないことに繋がってしまう。

 また、出題する歴史的語句の量を減らして精選する方向性を明確に示している。難関私立大学の細かい歴史的語句を暗記しなければならない出題との乖離が際立ってくるだろう。

 細かい歴史的語句の暗記を主体とする学習が大学入試のための効率的学習として行われている場合がある。しかし、この学習は、入試で日本史を選択しない生徒には不要であり、授業に興味を持たずに寝たり、授業についていけない生徒を生み出していることも教育現場の実態である。大学入試問題の改革は、高校の授業を改革するために避けて通れない課題と考える。

 地図の出題は該当地域(今回は東北地域)の高校生に有利で公正さに欠ける面があるかもしれない。特定地域の出題は、地域ごとの得点の追跡調査(今回は東北各県の高校生にどの程度有利であったか)が必要であろう。この出題は許容範囲と考えるが、出題には西日本と東日本のバランスをとるべきだ。

 

2020.11.22更新

 


『朝日新聞』で紹介された前記の画像に関して、

○第2問の問3(解答番号10・11)は、2問を正答して合わせて3点となっている。この問題はレベルが高く、2問正解が必要なこともあり、平均正答率が5%~10%となっており、正答率が最も低く、難易度が最も高くなった。

○第3問の問4(解答番号17)は正答率が35%~40%であり、やや難しい問題となっている。このレベルの出題が共通テストの難易度の高い出題と考えればよい。

2020.11.22

 

朝日新聞2018.11.11 24面の複写
朝日新聞2018.11.11 24面の複写

大学入学共通テストに向けた試行調査の平均正答率

朝日新聞2018.12.28 19面から転写
朝日新聞2018.12.28 19面から転写

日本史Bの平均得点率(平均正答率)が世界史B、地理Bに比べ低い。

 今回の試行調査の平均得点率(平均正答率)の目標は50程度であった。日本史B54.57(53.58)はやや易しいが、世界史B59.60(59.24)と地理B61.46(60.02)は目標よりかなり易しい問題になった。

 センター試験(平均点60~65点)と比較すると、試行調査日本史Bは約10ポイント低い50台前半なのでかなり低く、受検生には難しい問題になっている。なぜ難しいのか、試行問題とセンターの問題を比較してみる。

 センターは、教科書の語句の理解と歴史的事象の流れの理解で解答できる問題が多い。たとえば、文章の空欄の中に、正しい語句を選択させて文章を完成させたり、語句の知識を問う問題がかなりある。

 こうした得点しやすい語句の知識を問う単純な出題は、前記の試行問題の範囲では、出題されていない。たとえば、完成式の空欄はセンターは語句を入れるが、試行調査では文を入れる形式になっている。また、受験生の得点しにくい文章の正誤問題と組合せ式の問題が多くなっている。

 資料や地図の読解と学習してきた基本的な歴史的事象の知識・理解を総合し、そこから多角的・多面的に思考し、文章の正誤を判断して組み合わせ式で答える問題が多くなっている。

  

 2019年1月19日実施のセンター試験日本史Bに、前記の試行問題の思考を重視する新型の傾向が現れるのかどうか注目していたが、結果は従来通りで新型の出題は見られなかった。2020年1月実施のセンター試験日本史Bも従来通りであった。 

 また、すでに指摘している大きな問題点が、地歴科の平均得点率に科目間の差がでていることである(上表・日本史Bはかなり低い)。いくら思考力を問う良質の問題作成がおこなわれても、大学入試である以上、学力ではなく、平均点の差によって合否が決まる制度を放置してはならない。思考力を問う問題はできたが、大学は不合格になったのでは、入試問題の改善は烏有に帰すことになる。高校での履修科目の選択にも影響する。

 前にも述べたが、平均点を同点とする得点調整制度が不可欠であり、思考力を問う問題作成と平均点を同点にすることを車の両輪にしなけば入試改革は失敗に帰するであろう。

2020.11.23最終更新