彦島村・鈴木亜鉛工場

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新聞記事

《『九州日報』大正7年8月21日》「●彦島 鈴木工塲の怪火 原因全く不明の火

「下關市外彦島鈴木工塲に於て一昨十九日夜何等かの騒擾あり或は又工塲の一部に火災ありたりとの風説門司附近に傳はりしが下關當局に就き聞く所に依れば同工塲は十七日夜十二時頃雜品倉庫バラツク式の假小屋に失火ありたるも多數の職工全部駆け附け消止めたり其倉庫は平常人の出入甚だしからざる所にして出火の原因今以つて判明せず損害僅少なり云々尚同工塲は其後何等の異状なしと」

 

《『九州日報』大正7年8月23日》「●暴動 煽動者は元憲兵 下ノ關の鈴木襲撃

去る十六日門司市に於ける米暴動に際して群衆を指揮し重なる商店を破壊したる島根縣生れ當時舊門司市外〇〇〇某(廿四)は元憲兵にして大正五年頃まで福岡縣東郷署に於て巡査を奉職し居たる某等一味徒黨と共に翌十七日下關市外彦島に赴き同夜開演中の劇塲の閉塲るを待ち入塲者を煽動し二手に分れて字西山鈴木工塲に殺到し一隊は工塲に放火し他の一隊は事務所を襲撃する計畫を以て同夜十一時頃劇塲前に於て入塲者の出で來るを待つて鈴木を遣つ付けろ(繰り返し)と叫びたれど入塲者の大部分は鈴木工塲の職工なる爲め一向煽動に乗らず前記島根縣生れの某が事務所に投石せる處を警戒の警官に逮捕せられ他の一味の者は工塲に放火せるも既報の如く大事に至らず鎮火したる由にて前記兩名は目下下關署に於て取調中なり」

 

《防長新聞大正7年8月24日》「●彦島工場全滅を企てたる首魁」。要約。 

住所不定の某は17日門司から彦島に押し渡り、元門司警察署巡査で憲兵を勤めた某その他二三と共謀し、17日夜に鈴木亜鉛工場を全滅する手はずを整え、劇場が閉場して観客が外に出るころを見計らい、二手に分かれて一方は同工場雑品倉庫に放火し、一面事務所に投石し一挙全滅を企てた。しかし、劇場を出た同工場の職工は雷同せず、火も消し止められて某はその場で警察官に取り押さえられ目下下関警察署で取調中。

在郷軍人の煽動

「騒擾ニ加ハリタル在郷軍人ノ状況」「山口縣彦島村」

史料は、アジア歴史資料センターRef.C03011253500『米価騰貴ニ基ク各地騒擾ノ件』。

枠・傍線は管理者。

軍隊の派遣

史料は、アジア歴史資料センターRef.C03011253500『米価騰貴ニ基ク各地騒擾ノ件』。

上の史料は、8月18日に彦島鈴木亜鉛工場に派遣された下関要塞の11名の兵士が8月25日に衛戍地(下関市上田中町)に撤去した報告です。

彦島村は8月14~16日に大規模な米騒動の勃発した門司の対岸あり、下関市街地とは小さな瀬戸を挟んで接している島です(上の地図で確認できます。ただし当時は下関駅から南側の埋立てはありませんでした。)。8月17日夜に鈴木亜鉛工場で、在郷軍人(元憲兵)が関わる騒動が発生したため18日から25日まで11名の兵士が派遣されて警戒に当たりました。

シベリア出兵の戦時体制下において重要な工場があり、暴動の警戒と米騒動の拡大を予防する目的で安全が確認される期間、工場に出兵したと考えます。 

司法

騒擾事件調査票

国立公文書館アジア歴史資料センター「米価問題に付騒擾の件2止(14)」(レファレンスコードc08021485500)の「騒擾事件調査票」55~82ページ(番号1527~1554)。次の表は、この史料の中の「騒擾犯人身位別表」(70ページ)です。

騒動発生地・彦島鈴木亜鉛工場

三井金属彦島製錬正門(米騒動時は彦島鈴木亜鉛工場)・下関市彦島西山町(管理者撮影)
三井金属彦島製錬正門(米騒動時は彦島鈴木亜鉛工場)・下関市彦島西山町(管理者撮影)

《質問》鈴木商店系列で襲撃された店舗や工場・鉱山は他にないだろうか。なぜ鈴木商店は襲撃対象となったのだろうか。

【参考】①神戸の鈴木商店は、第一次大戦中に急成長し、三井・三菱をしのぐ総合商社となり、下関には支店や神戸製鋼所がありました。②宇部炭鉱は地元資本の炭鉱がほとんどで宇部鉱業組合に所属していたが、唯一所属していなかったのが鈴木商店資本の沖見初炭鉱株式会社(開坑準備中・現在の明神町の「フジグラン」のところにありました)で米騒動時に襲撃されました。③HPの周南地区の米騒動で取り上げている太華村の日本金属徳山製錬所は鈴木商店の経営で、賃上げ要求の労働争議があり、米穀商が襲撃されて米騒動となりました。④大戦による穀物価格の高騰と船舶不足の中、鈴木商店(当時外相の後藤新平が台湾総督府民政長官時代から鈴木商店と関係が深く、鈴木商店は政商となって外国米・植民地米の輸入・移入の指定業者になっていました)は自社の貨物船で穀物を輸出して莫大な利益を上げていましたので民衆の反感を買い、米騒動の時、神戸の鈴木商店本店は民衆により焼き打ちされました。

以上は概略ですが、詳しく調べてみましょう。