【日本史B本試験 第1問・通史のテーマは何か】
〇入試が大きく変わる時は過去に教育をテーマにした出題があったが、教育は令和2年度(2020.1.18)センター試験本試験第1問の通史のテーマになっている。最後のセンター試験となり、次年度から共通テストに移行するために教育をテーマにしたのかもしれない。
〇時事的には感染症の歴史がテーマになり得る。
〇管理者は、国際的に見て日本の男女平等が課題になっているので、女性をテーマにした出題を期待している。
《直近の本試験第1問・通史のテーマ》
◇令和2年度センター試験(2020.1.18)「教育」
◇平成31年度センター試験(2019.1.19)「交流・外交」をテーマに、第1問で、近世までの地域、東アジア、蝦夷地との交流・外交に関する出題、第6問で日米外交史に関する出題という変則的な構成となっている。
◇平成30年度センター試験(2018.1.14)「観光」
《共通テスト試行調査第1問・通史のテーマ》
◇第2回試行調査(2018.11) 「土地開発と災害の歴史」
◇第1回試行調査(2017.11) 18歳選挙権制の実現をふまえ「中世までの「会議」や「意思決定」の方法」
2021.1.5更新
第1日程(2021.1.16実施)日本史Bの第1問のテーマ 「貨幣史」。
2021.1.20
「大山鳴動して鼠一匹」。第1回共通テストに注目していたが、日本史Bに関しては共通テスト導入・試行調査と「大騒ぎ」をした割に、想定されたほどの変化はなかった。コロナによる授業時間減少で受験生の負担を少なくしたのか、問題作成の側が、第1回、第2回、追試と3回分を作成したため時間をかけて作問がしにくかったのか、その辺の事情はよく分からない。結果としては、試行調査の問題と比較すると出題内容や思考の難易度が低く、連動型正誤・組合せの出題形式も問いがシンプルで、全体的にレベルが落ちている。
問題数は32問で、近年の36問が予測されたが、思考力を問う出題を企図し、受験生が時間不足に陥らないよう配慮して問題数を削減したことは評価できる。
32問の配点に関して、4点の配点が4問ある中で、解答番号18のシンプルな年代序列がなぜ4点なのか疑問である。
設問は、今後の授業の方向性であるアクティブラーニングの授業方法を意識して作成されている。
設問ごとのテーマは、貨幣史、近代女性史、近現代土地制度史など、よく活用される一般的なテーマであり、第1回で期待したチャレンジ性や新鮮味がない無難なテーマとなった。
出題内容のレベルは、高校の授業を反映した標準的なレベルの出題である。受験生も「解きやすかった」(『朝日新聞』2021.1.17社会面)と感じており、試行調査より難易度は低くなっていることを合わせて推測すると、平均点は65点以上が予測される。
出題の内容に関しては、時代別では原始・古代、中世、近世、近現代からバランスよく出題されている。戦後の出題は2.5題(7.5点)あるものの、戦争終結からあまり時代の下らない範囲であり、コロナによる授業時間不足が生じたとしても支障はないだろう。また、分野別では、昨年に続き外交分野の出題が少なく、社会経済史のテーマが多かった。これは、2年間は同じスタッフで作成する事情があるために、昨年度と同じ傾向を持つのかもしれない。
出題方法は、史料、絵巻・絵図・模式図、地図、資料など多角的な資料を読み取る技術に、授業で得た知識を加えて思考する問題が多い。これはセンター試験の出題でも行われてきたが、今回は下記の通り資料問題が倍増していて今後の授業に示唆を与えている。また、解答には直結しないが女性の写真が印刷されていて、歴史への興味・関心を高める工夫がされている。
出題形式は、連動型、単独型の正誤・組合せ式で解答する問題が多かった。正誤問題も、連動型の複雑な問いはなく、シンプルな形式の問題が多かった。完成式問題は少なくなる傾向で、完成式でありながら問題番号22に見られるように、歴史的語句を単純に選択するのではなく、文中の「社会主義に近づく」から、「平民社」を類推して選択させるよう工夫した出題もあった。年代序列式が毎回多く出題され、3つの選択肢の時代を歴史の流れに位置付けて考えさせる問題が4問あった。他の問題の中にも年代序列の知識が必要なものが複数あり、年代の暗記につながらないか気になる。
出題は、大学入試センターからあらかじめ提示された「出題方針」に沿っている。しかし、試行調査と比較して、よくいえばシンプル、悪く言えば安づくりで重みのない問題と管理者は考える。
2021.1.18
自己採点で、理科と公民科で平均点に20点以上の差があり、得点調整の可能性あり。
2021.1.19
《地歴科》
世界史B ベネッセ・駿台64 河合塾63
日本史B ベネッセ・駿台64 河合塾64
地理B ベネッセ・駿台60 河合塾60
世界史Bと日本史Bの平均点は一致しており評価する。ただし、入試センターの目標得点率が60点であったとするなら、地理の問題作成者(高大連携)は見事であったと言えるが、世界史B、日本史Bの平均得点率が高いために、地理の受験生は不利益を被る。すなわち、地理の良問を解いて、高い偏差値をとった受験生が、大学の合否では不合格となり、偏差値が低い世界史・日本史の選択者が合格してしまう。
2021.1.19
理科と公民の自己採点で平均点に20点以上の差が出ており得点調整が行われる状況だと報じられた。そもそも20点以上で得点調整という制度自体が不合理である。
今年は、コロナの影響で共通テストの得点が合否を分ける割合が高くなっている。すなわち、選択科目の平均点が1点でも違えば、受験生の学力ではなく平均点の差で合否が決まる。
しかも、地歴科では前記のように、地理の作問が良問である可能性が高い。共通テストのみで合否を判定する前中後期の大学・学部では、同じ学力でありながら地理選択者の多くが不合格となる。これは、不条理ではなく不合理で、大学入試センターの「犯罪」である。
今回、20点の差をどのように得点調整するかの情報は示されていない。しかし、得点調整をするシステムが構築できているのなら20点以上ではなく、平均点に2~3点を超える差が出た場合は得点調整をしなければならないと考える。
2021.1.20
平均得点率(平均点)と科目間格差。(昨年のセンター平均点)
《地理歴史》
世界史B 65.79点(62.97点)
日本史B 66.06点(65.45点)
地理B 62.52点(66.35点)
《理科②》
物理 58.89点(60.68点)
化学 52.80点(54.79点)
生物 73.14点(57.56点)
地学 47.06点(39.51点)
理科の生物と化学の平均点の差が20.34点となった。公民でも倫理と政治・経済の平均点の差が20.44点となっている。ただし、中間集計時点では倫理の受験者数は1万人以下である。
最終集計で平均点に20点以上(1万人以上)の差がでれば得点修正が行われる。しかし、なぜ20点(1万人以上)なのかの説明はない。
2021.1.21
大学入試センターは、理科、公民科で平均点に20点以上の差が出たため、得点調整を実施すると発表した。
「分位点差縮小法」により平均点の差を15点とする。地学は1万人以下のため得点調整は実施しない。
平均点で15点の差は、多くの大学で合否に影響する。化学と政治・経済を選択した受験生は、生物と倫理を選択した受験生と同じ学力でありながら、合計点で30点の差が生じる。
また、地学は2年連続で平均点に20点以上の差が出たが、規定により得点調整はない。これでは高校の授業で地学を選択する生徒はいなくなる。今後も1万人未満が続くことになれば作問の質の改善が問われなくなる。
大学入試は1点差、あるいは1点未満の差で合否が決まる厳しさがある。管理者は高校入試(5教科同一問題250点満点)で、合否のボーダーラインの1点前後に何十名もひしめく試験を長い間経験してきた。合格発表の現場は悲喜こもごもで、その姿を目に焼き付けて細心の注意を払いながら採点してきた。1点でその生徒の人生が変わることもあるのだ。
管理者からみれば、平均点の15点差を平然と制度化する大学入試センターは「犯罪者」にしか見えない。公平公正な入試制度を確立するために、平均点の差の問題を真剣に検討していただきたい。
2021.1.23
平均得点率(平均点)と科目間格差。(昨年のセンター平均点)
《地理歴史》
世界史B 63.49点(62.97点)
日本史B 64.26点(65.45点)
地理B 60.06点(66.35点)
《理科②》
物理 62.36点(60.68点)
化学 57.59点(54.79点)
生物 72.64点(57.56点)
地学 46.65点(39.51点)
②大学入学共通テスト日本史B(第1回・第1日程)2021.1.16実施
《全6問 テーマ。解答番号。配点。「出題方法」。時代別。分野別。出題形式。必要な能力。難易度》
第1問 通史・テーマ「貨幣の歴史」6問 18点
研究発表の準備のための博物館見学の2人の会話。テーマ設定の理由・・新紙幣・硬貨の発行。
1 3点 古代・政治。連動型正誤・組合せ。思考・判断。難。
2 3点 「一遍上人絵伝」。中世・社会経済。正誤・組合せ。読図技術・知識。標準。
3 3点 中世。政治1.5点・外交1.5点。正誤・組合せ。知識。標準。
4 3点 「図表」。近世。経済政策。正誤(誤)。技術。易。
5 3点 近代。経済政策。年代序列。知識・思考。標準。
6 3点 「資料」。中世3/4点・近世3/4点・現代1.5点。経済1.5点・政治1.5点。正誤・組合せ。知識・年代。やや難。
第2問 原始・古代「日本における文字使用の歴史」 5問 16点
テーマ学習の授業の発表。テーマ「文字使用の開始」「文字使用の展開」
7 3点 「地図」。古代。外交。年代序列。知識・思考。標準。
8 3点 「史料」。古代。政治。正誤・組合せ。技術・知識・繋がり。標準。
9 3点 「事例」。古代。文化。正誤・組合せ。技術・知識・繋がり。標準。
10 3点 古代。文化。連動型正誤・組合せ。知識・思考。標準。
11 4点 古代。外交1点・政治2点・文化1点。正誤(誤)。知識・技術・思考。やや難
第3問 古代・中世「中世の都市と地方との関係」 5問 16点
12 4点 「史料」。古代。社会経済。連動型正誤・組合せ。技術。標準。
13 3点 「絵図」。古代。社会経済。連動型正誤・組合せ。技術。易。
14 3点 古代1.5点・中世1.5点。社会1.5点・文化1.5点。正誤(誤)。知識・年代。易。
15 3点 中世。社会。年代序列。知識・年代。標準。
16 3点 中世。文化1.5点・経済1.5点。連動型組合せ。知識・年代。標準。
第4問 近世「近世の儀式・儀礼」 5問 16点
17 3点 「模式図」。近世。政治。正誤・組合せ。技術・知識。易。
18 4点 近世。政治。年代序列。知識・時代背景の思考。標準。
19 3点 近世。外交。正誤。知識。やや難。
20 3点 「史料」。近世。社会。正誤(誤)。技術。標準。
21 3点 「史料」。近世。政治。正誤・組合せ。技術。思考。標準。
第5問 近代(幕末・明治前期)「女性史」 4問 12点
22 3点 「写真」。近代。社会1.5点・文化1.5点。完成式・組合せ。知識・思考。標準。
23 3点 近代。政治。組合せ。知識。易。
24 3点 「史料」。近代。文化。正誤。技術・知識・年代。標準。
25 3点 近代。社会。正誤・組合せ。知識・年代。標準。
第6問 近現代「第二次世界大戦後の民主化政策」 7問 22点
班別学習で農地改革をテーマに調べ発表。
26 3点 「スライド1」。近代。社会・経済。正誤・組合せ。知識。標準。
27 3点 近代。社会。選択。知識・年代。易。
28 4点 近代。社会。完成式・連動型正誤・組合せ。知識・思考・判断。標準。
29 3点 「スライド2」。近代。政治1.5点・社会1.5点。正誤・組合せ。知識。やや難。
30 3点 近代。政治。完成式・正誤・組合せ。技術・思考。標準。
31 3点 「スライド3」。現代。政治1.5点・社会1.5点。正誤(誤)。知識・技術。標準。
32 3点 現代。政治。正誤・組合せ。知識。易。
2021.1.18
正解の番号(全32問)
1 9問 28.1%
2 6問 18.8%
3 6問 18.8%
4 7問 21.9%
5 3問 9.4%
6 1問 3.1%
今回は選択肢1に正答が多かった。すべて1にマークすれば28点を取ることができた。
確実に60点が解答できれば、残りの40点の約2割の8点は、適当にマークすれば得点の上乗せできるので、68点の得点が取れる。
2021.1.17
《時代別の出題割合》()は昨年度センター試験2020.1.18実施。
原始・古代 27.5点。(19.5点(原始(縄文・弥生文化)の配点(1.5点))
中世 14.25点。(21点)
近世【南蛮貿易・キリスト教は近世に含む】 19.75点。(19点)
近現代史【ペリー来航以後の幕末を含む】 38.5点。(40.5点)
うち現代史【戦後】の問題 7.5点 1965年まで。(3.75点 サンフランシスコ平和条約以前の出題)。
《分野別の出題割合》
政治【経済・金融政策を含む】 39点。(36.5点)
外交 8.5点。(13.75点)
社会・経済 38点。(27.5点)
文化 14.5点。(22.25点)
《出題形式の割合》
連動型正誤・組合せ 4問。
完成式・連動型正誤・組合せ 1問。
連動型・組合せ 1問。
正誤・組み合わせ 12問。
正誤 7問[内、誤りの文を選択する問題・5問]
選択 1問。
完成式・組合せ 1問。
組合せ 1問。
年代序列 4問。
[正誤・組合せ問題が12問(38%)で多く、正誤問題が7問(22%)ある。連動型の正誤問題を合わせると、正誤問題は24問(75%)あり、マークシート方式のなかで理解力、思考力を問う中心的な出題形式になっている。]
《史料・図等の読解》
史料読解が5問、絵巻・絵図・模式図が3問、地図が1問、グラフが2問、資料が4問あり、センターと比較すると倍増している。ただし、史料には(注)が付いており、史料を正確に読めば解答ができる出題になっている。(昨年のセンター・・史料読解4問、漫画読解1問、図1問、図・史料1問。)
2021.1.18
(1)第2問 問2 解答番号8
〇史料:「江田船山古墳出土鉄刀銘文」教科書掲載の多い金石文。
〇出題内容:古代の政治。5世紀後半のヤマト政権の支配地域の拡大に関する出題。
〇必要な能力:《知識》江田船山が熊本県、稲荷山が埼玉県である。ワカタケルが「倭の五王」の「武」と雄略天皇に比定されている。倭王武は478年に南朝の宋に上表しており、東国、西国、海北の諸国を平定している。《理解》:ヤマト政権が関東地方から九州地方までの地域を統一していた。
X 漢字の音を借りて日本人の名や地名などを書き表すことができるようになっているので正しい。
Y 埼玉県から熊本県までの豪族がヤマト政権の大王に仕えていたことがわかるので正しい。
正解:① X 正 Y 正
(2)第3問 問1 (1) 解答番号 12
〇史料:紀伊国那賀郡神野真国荘(ながぐん・こうの・まくにのしょう)の成立に関する初見文書。
〇出題内容:中世の社会・政治。12世紀、院政期の荘園の成立過程を問う出題。
神野真国荘は、院庁下文によって成立した鳥羽院の自領の荘園。院の使者と郡司が牓示を打って立券し、郡司は紀伊国留守所(国衙)に報告した(本家・鳥羽院。領家藤原成通)。
X 史料から、紀伊国留守所(国衙)は、院庁下文のとおり立券して報告するよう郡司に下達しているので正しい。
Y 史料から、紀伊国留守所は、那賀郡司に対し、院の使者とともに牓示を打ち、文書を作成して立券し、報告するよう命じているので正しい。
正解:① X 正 Y 正
(3)第4問 問4(1) 解答番号 20
〇史料:「須坂町法取締規定書」の初見文書。
〇出題内容:近世の社会・政治。休日について定めた1814年の町法に関する出題。
①休日は、村や町があらかじめ定めておいた休日と一時的に広まる臨時の休日があり「遊び日」とよばれた。
②休日は、住民から町役人へ申し出て領主の許可を得ていたので、全国一律に制定されていなかったので誤り。
③必要な休日は、町の住民から町役人を通して領主に休日を願い出た。
④「附けたり」で、休日は無駄な時間を過ごさず、手習いやそろばんなどに励むことが奨励されている。
正解:②
(4)第4問 問4(2) 解答番号 21
〇史料:『幕末御触書集成』第1巻の初見史料。
〇出題内容:近世の政治。天長節のお祝いに関する史料読解。
〇解答:最も適当な文の2つを組合せて選択。
a 「天下の刑戮差し停められ候」とあるので正しい。
b 「毎年此の辰を以て」とあり、この年1回限りでなく毎年の9月22日に行われたので誤っている。
c 庶民も「一同御嘉節を祝い奉り候様」と天長節を祝うよう促しているので正しい。「天皇の存在を意識させようとしたものだった」ことは史料には記載がないが推察できる。
d 史料では天長節を祝うことを禁じておらず、そもそも禁ずることと天皇の権威を高めることは矛盾しているので誤り。
正解:① a・c
(5)第5問 問3 解答番号 24
〇史料:景山(福田)英子『妾の半生涯』。著名な文献の初見部分。
〇出題内容:近代の文化。明治期の女子教育機関の課題解決の取り組みに関する出題。
〇必要な能力:《史料読解の技術》《思考力》《知識》。年代暗記につながる出題は問題が残る。
〇解答:最も適当な文の2つを組合せて選択。
a 当時の一般女学校の工芸科が「優美を旨」として、生計の助けにならないことを課題にしており、「角筈」で「優美な技術を教えたかった」とは考えられず、誤りである。
b 「優美を旨」とする技術教育を課題としており、「角筈」では生計の助けになる技術を教えたかったと推察できるので正しい。
c 「角筈」の設立は1901年、教育勅語の内容の説明は正しいが、発布は1890年なので時系列が誤っている。「角筈」設立と教育勅語は直接的な連関はないので、因果関係等を思考して時系列を判断することはできない。教育勅語などの主要な歴史的事象の年代の知識を求めている。
d 義務教育が6年となったのは1907年なので正しい。年代の知識がないと答えられないので問題作成方針に沿っていない。
正解:④ b・d
2021.3.1 2022.3.20画像追加(朝日新聞2021.1.17)
「令和3年度大学入学共通テスト(1月30日・31日)における,得点調整対象科目の受験者数が全て1万人未満であることから,得点調整は行わないことを決定しましたので,お知らせします。」
①大学入学共通テスト日本史B第2回試行調査2018.11.10実施
②大学入試センター試験日本史B本試験2020.1.18実施
③大学入試センター試験日本史B本試験2019.1.19実施