大学入試センター試験は今年度(2019年度)で終了です。
共通一次試験は1979年(昭和54年)1月に始まり、1989年(平成2年)1月まで11年間でした。
大学入試センター試験は1990年(平成3年)1月に始まり、2020年(令和2年)1月までの31年間となります。
2020年度(2021年(令和3年)1月実施)から大学入学共通テストとなり、思考力・判断力・表現力を重視した出題となります。
ただし、国語・数学の記述式は2020年度は実施されません。
社会・理科の記述式は、新学習指導要領による初めての高校3年生が受験する2024年度(2025年(令和7年)1月実施)からとなります。
大学入学共通テストは、試行テストからみるとセンター試験の出題内容・方法からの変化がありそうです。
AIが今年度のセンター試験の出題予測をすると予告していましたが失敗しました。思考力を問う日本史の予測は簡単ではないようです。
最終更新2020.10.2
大学入試センターは1月22日、平均点の中間集計を発表した。約26万人分。
(朝日新聞2020.1.23付)
《地理歴史(100点)》
世界史B 65.10
日本史B 67.22
地 理B 67.94
科目間の差は最大2.84点であり、許容範囲ぎりぎりではあるが、平均点65点を意識した作問が検討されたとみられる。
《理科(100点)》
物理 61.64
化学 56.23
生物 58.69
地学 40.34
科目間の差は最大21.30点ある。地学受験者が1万人に達しないため、20点以上の差があっても得点調整は行われない。
理科は教科間の連携がみられず、平均点をそろえようとする意思がみられない。特に、地学受験者は平均点の差という受験生に責任のない不合理な理由で差別されることになり、志望校の変更を余儀なくされる。
一生の問題であり、記述式導入の公正さの問題よりかはるかに不公正であり、損害賠償を求めてよいのではなかろうか。
2020.1.25
大学入試センターは2月6日、2020年のセンター試験の平均点などの最終集計を発表した。
(朝日新聞2020.2.7)
世界史B 62.97
日本史B 65.45
地理B 66.35
世界史Bは全員正解とした1問があるため平均点が上積みされたが、他科目より相対的にやや難しかった。科目間の差は最大3.38点あり、2点以内(1問程度)に抑える努力をしないと、学力ではなく平均点が合否に影響する。3.38点の差は許容範囲を超えている。
理科は物理60.68と地学39.51の差が21.17あり、地学の受験生が1万人に達していないため、本来行われるべき得点調整が行われない。地学受験生は受験校・学部等の変更を余儀なくされ、学力や努力ではなく、平均点の差で人生を左右されることになった。特に地元大学から他地域への進路変更は経済的負担が大きい。責任は入試センターにある。
2020.2.11
センター試験日本史Bは2020年1月実施が最後となり、来年度は共通テストに移行する。今年度の問題は、出題形式と内容が従来のセンター試験と同じであり、平均点も65.45点と比較的高く、問題数も昨年と同じ36問であり、受験生にとっては取り組みやすい適正な問題であった。また、テーマ別の出題、会話形式、漫画の出題など興味関心を持たせるよう工夫されている。
来年度実施の共通テストは、出題形式、内容が大きく変わる蓋然性がある。
《時代別の出題割合》()は昨年度
原始・古代 19.5点(20.5点) 原始(縄文・弥生文化)の配点は1.5点にとどまっている。
中世 21点(18.5点)
近世(南蛮貿易・キリスト教は近世に含む) 19点(18.5点)
近現代史(ペリー来航以後の幕末を含む) 40.5点(42.5点)
時代別の出題割合は昨年度との変化はない。
現代史(戦後)の問題が3.75点(4%)に抑えられている。戦後史は重要ではあるが、3年生の3学期の授業が終わらない段階のセンター試験であり、高校側の要望に応える形で、サンフランシスコ平和条約以前の出題とし、出題数が少ないことは評価できる。
《分野別の出題割合》
政治 36.5点(51.75点)
外交 13.75点(25.5点)
経済・社会 27.5点(14.5点) うち経済14.75点、社会12.75点
文化 22.25点(8.25点)
分野別では、昨年度は政治・外交に偏っていて(77.25点)、経済・社会(14.5点)と特に文化(8.25点)が極端に低かったが、今年度は分野別の出題割合のバランスを取って改善している。漫画の出題は評価できる。
《出題形式の割合》(本年度%)
完成式・組み合わせ 6問(17%)
正誤・組み合わせ 14問(39%)
正誤問題 11問(31%)
年代序列 5問(14%)
すべての形式は、正誤問題、組み合わせ問題、年代序列となっており、歴史的語句を一問一答で問う問題と年代を直接問う問題は1問もない。歴史的語句を完成法で問う場合も組み合わせ形式で解答を求めている。知識・理解力、思考力・判断力を総合的に問う問題作成意図がみられる。
《史料・図・漫画の読解》
史料読解が4問(以下で解説)、漫画読解が1問、図が1問、図と史料が1問ある。史料には(注)が付いており、史料を正確に読めば解答ができる。地図の出題はなかった。
《全36問 時代・分野・配点・出題形式》
第1問 通史 教育 6問16点 姉妹の会話形式
1近代・教育制度、中世・足利学校 2点 完成式・組み合わせ
2古代・大学別曹、中世・金沢文庫 3点 正誤・組み合わせ 図・史料使用
3古代・中世・近世・近代 教育機関 2点 正誤問題
4中世・近世 技術革新 3点 年代序列
5古代・近世 歴史物語 国学・古学 3点 正誤・組み合わせ
6近代 津田左右吉 歴史・思想 3点 正誤・組み合わせ 史料読解
第2問 古代 辺境支配 6問16点
7古代 地方統治機関 3点 完成式・組み合わせ
8原始・古代 辺境の文化・支配 2点 正誤・組み合わせ
9古代 地方統治 3点 正誤・組み合わせ 図使用
10古代 辺境の反乱・城柵 3点 完成式・組み合わせ
11古代 徳政相論・三筆 2点 正誤・組み合わせ
12古代 遣唐使・蝦夷の社会 3点 正誤・組み合わせ 史料読解
第3問 中世の社会 6問16点
13中世 僧兵の強訴と武士の台頭 3点 正誤・組み合わせ
14中世 地頭の非法と荘民の訴状 3点 正誤・組み合わせ 史料読解
15中世 鎌倉・山口の文化と京都の商業 2点 正誤問題
16中世 武士の台頭と一揆 2点 正誤問題
17中世 戦国大名の領国支配 3点 正誤・組み合わせ
18中世・近世初頭 流通経済 3点 年代序列
第4問 中世末・近世 銀・鉄の生産・流通 4問12点
19中世・近世 銀山・貿易 2点 完成式・組み合わせ
20近世 南蛮貿易・貿易統制 3点 年代序列
21近世 貨幣制度 3点 正誤問題
22近世 技術 2点 正誤問題
23近世 村社会・農具・特産品・国訴 3点 正誤問題
24近世 鉄穴流し 3点 正誤・組み合わせ 史料読解
第5問 幕末・明治前期(幕末は近代とする) 民衆運動 4問12点
25幕末・明治 通商条約・政治結社 3点 完成式・組み合わせ
26幕末 物価高騰の原因と対策 3点 正誤問題
27幕末・明治 ええじゃないか・農民一揆 3点 年代序列
28民権運動と同時代のできごと 3点 正誤問題
第6問 近現代の風刺漫画 8問24点
29近代 言論・思想弾圧 3点 完成式・組み合わせ
30近代 従軍記者と戦争 3点 年代序列
31近代 日露戦争後の外交 3点 正誤問題(年代)
32近代 大戦景気 3点 正誤問題
33近代 大正のジャーナリズム 3点 正誤・組み合わせ
34近代・現代 大正期の政治・社会 3点 正誤問題
35近代 総力戦 3点 正誤・組み合わせ
36現代 農地改革 3点 正誤・組み合わせ 漫画使用
津田左右吉に関する出題は新聞で取り上げられていた。『日本書紀』の神話による皇国史観の政治的復活を懸念する出題か?
(以上2020.2.17)
画像は『朝日新聞』2020年(令和2年)1月19日付を管理者が撮影。
2020.1.18実施のセンター試験日本史B(本試験)の資料問題は6問(史料読解問題4問、図判読1問、漫画使用1問、図・史料使用1問)であり、地図の使用はなかった。地図の出題は、出題地域の受験生に有利であり、公平性に課題があるので使用が難しい面がある。
以下では史料読解問題4問を解説する。
(1)解答番号6
「歴史書」としての『古事記』『日本書紀』の特質を明らかにした津田左右吉の著書」に関する問題で、マスコミが取り上げた出題である。
要約
古事記・日本書紀の神武天皇以後の時代の記述は、帝紀・旧辞に基づいて書かれているが、帝紀・旧辞は、6世紀初めころの社会状態に基づいて、6世紀初めころの政府・朝廷関係者の思想で皇室の由来を説き、また、伝説や4世紀終わりころからの記録により、近い時代の皇室の事績を語ったもので、民族の歴史ではない。特に神武天皇以後の時代の記述は、6世紀初め(帝紀・旧辞成立)から8世紀初め(記紀成立)までの200年間の間に、いろいろな考えで誇張やとりつくろいがあって改変されて現在遺っている記紀の記述となった。(中略)記紀の上代の物語は歴史ではなく「詩」である。詩は歴史より国民の思想をよく物語る。
解説
4つの選択肢から正しいものを2つ選ぶ。
aは、「手が加わっていないので、史実とみなすことができる」は、津田が「変改せられて、今に遺っている」とし、記紀は歴史ではないとしていることから誤りである。
bは、津田が、記紀は歴史ではなく詩であり、詩は歴史より国民の思想をよく語るとしており、正しい。
cは、吉野作造は大正期に、民意が政治に反映される民本主義を主張しているので正しい。
dは、三宅雪嶺が『日本人』を創刊し、国粋主義を唱えたのは明治期なので誤りである。
aとbは前記の史料読解をすればよい。cとdは明治・大正を代表する思潮の時代の理解を問う問題である。
bとcが正しく、正解は③である。
(2)解答番号12
「抵抗を続けた蝦夷の実態」に関する『日本書紀』の史料の問題。
要約
遣唐使の坂合部連石布は、陸奥の蝦夷男女2人を唐皇帝の高宗にお見せした。随行員の伊吉連博徳の書には、「高宗が、陸奥の居住地に五穀はあるかと質問されたので、使人は、五穀はなく、肉を食べて生活すると謹んで答えたという。高宗が、蝦夷の居住地に屋舎はあるかとおっしゃったので、使人は、屋舎はなく、山の中の木の下に住むと謹んで答えた」という。
解説
4つの選択肢から正しいものを2つ選ぶ。
a遣唐使が蝦夷男女2人を高宗に見せているので正しい。
b高宗が坂合部に質問しているので誤っている。
c肉を食べ、山の中の樹木の下で生活していると説明しているので正しい。
d五穀はなく、屋舎はないと説明しているので誤っている。
受験生には初見史料だが、a~dは史料読解だけで正誤の判断ができる。史料問題の多くが史料読解だけで解答できる場合が多い。
aとcが正しいので、正解は①である。
ただし坂合部の蝦夷観に偏見がみられる点は指摘が必要であったと考える。
(3)解答番号14
「鎌倉時代後期に紀伊国阿氐河荘の百姓たちが荘園領主への訴願のために作成した」訴状に関する問題。この史料は教科書掲載が一般的で、受験生になじみのある史料である。
要旨
(荘園領主(領家の寂楽寺)に年貢として貢進する)材木の納入が遅れている事ですが、地頭が(大番役などで)上京するとか、近所の人夫役とか申して、このように人夫が地頭の方でこき使われますので余暇(労力と時間)がないのです。それに使われずにわずかに残った人夫を、山から材木を引き出すために出発させたのですが、(地頭は)逃亡した百姓の耕地に麦を蒔けといって百姓を山から帰らせてしまったのです。おまえたちがこの麦を蒔かないと、妻(女性)を家に閉じ込め、耳を斬り鼻をそぎ、髪を切って尼にして、縄やひもでしばって、背いた行いを叱責し、きつい体罰を加えますので、荘園領主への材木の納入が遅れてしまったのです。
解説
4つの選択肢から正しいものを2つ選ぶ。
a「逃亡した百姓を連れ戻して麦を蒔かせるように命じられた」のではなく、山から帰らせて逃亡した百姓の耕地に麦を蒔くように命じられたのだから誤り。
b「逃亡した百姓の耕地に麦を蒔くように命じられた」のだから正しい。
c「荘園領主から頻繁に使役されたため、材木の納入が遅れた」のではなく、地頭の使役で遅れたのだから誤り。
d「地頭から頻繁に使役されたため、材木の納入が遅れた」のだから正しい。
教科書掲載史料だが、注を参考にしながら史料を読解できれば解答できる。
bとdが正しいので正答は④である。
(4)解答番号24
「1823年に鳥取藩が鉄穴(かんな)流しについて領内に通達した文書の一部」に関する問題。
注釈
ちかごろ日野川下流で、特に鉄穴流しの砂が大量に流れ出して、川底が高くなり、洪水の時はお上から預かった田畑・村々に危険が迫るため、いろいろ治水工事をするのだが、今の通りではその効果がないので、(たたら製鉄の)炉と鉄穴流しをしている場所を取り調べたところ、ちかごろ莫大に炉や鉄穴流しの数が増えている。以上のようすでは、近いうちに、砂鉄もすっかりなくなって、山林も伐採し尽くし、郡内の村々が衰微することは、明らかなことである。
解答
X「洪水対策を行ったところ効果があった」と述べているのではなく、「只今の通り(現時の洪水対策)にてはその甲斐(効果)これなきにつき」と効果がないと述べているので誤りである。
Y正しい注釈である。
Xは誤りで、Yは正しいので③が正答である。
史料を注を参考にして読解すれば解答できる。
中国山地の花崗岩が風化した真砂(まさ)には砂鉄が含まれ、古来、中国山陰地域の出雲のたたら製鉄や備前の刀剣製作は著名である。花崗岩ないし真砂の山を崩して川に流し、土砂と砂鉄の比重差を利用して効率よく砂鉄を大量に採取するのが鉄穴流し(かんなながし)である。砂鉄の採集、洗鉄の過程で生じた大量の土砂は河川下流域に流出する。
2020.2.20